東京高等裁判所 昭和60年(ラ)99号 決定
民事訴訟法三四三条に規定する証拠の保全は、「予メ証拠調ヲ為スニ非サレハ其ノ証拠ヲ使用スルニ困難ナル事情アリト認ムルトキ」に申立をすることができるものとされており、一般的にいえば、当該証拠が申立にかかる立証事項を証明するための証拠としての適格性を有するものである限り、当該証拠を保全する必要の有無・程度を特に問うことなくこれを許すべきであって、右必要の有無等の点は本案訴訟における受訴裁判所の判断に委ねられているものと解すべきである。しかしながら、証拠保全制度の目的からいって申立にかかる立証事項を証明するに足る証拠が既に存在し申立にかかる証拠を保全する必要のないことが極めて明白であるような場合には、右の申立をすることができないものと解するのが相当である。
右の観点から本件をみると、前記認定のような相手方の負傷とこれに対する診療の経過、ことに相手方が暴行を受けたと主張する日の翌々日に第三者医師による診療を受ける機会を与えられて診断書を得ており、しかもその五日後には相手方が特に希望し指定した病院医師の診療を受ける機会も与えられてその診断書を得ていることからすれば、本件についてさらに留置人診療簿を保全する必要がないことは極めて明白であるといわなければならない。
(鈴木 加茂 梶村)